黒助様

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誰に雇われているというわけでもありません。巳之助は、クサクサした気分を踏みしめながら、痛む足をおして丘を登りきりました。 手慰みに手頃の棒をそこらでひっつかんで、草を左へ右へとなぎ払います。その度に驚く虫たちが面白くて、そうれこっちだ、今度はそっちだと草を突き回します。 あの禿げ天頭の骸骨野郎が。ひっくり返って首の骨でも折っちまえ! 無心に草を払ううちに心の内に先ほどの番頭への呪詛が浮かびあがってきます。気持ちは晴れず、むしろ胸の中にムカムカしたものが募るばかりです。そうしていくらか草を払いのけているうちに、何かこう、黒いものが横切るようになりました。 最初はヤモリかなんかだと思ったんですが、それにしてはデカい。猫ほどの大きさがあるんですが、すばしっこくてね。だから、猫じゃあない。 よし、捕まえてやろう、なんて巳之助は思ったんですな。さっきよりも慎重に、そして執拗に草を薙ぎ払っていきました。 一心にそうしていますとね、ようやく黒いものの姿を捉えられるようになったんですが、これがやっぱりなんだかわからない。動物のようにも見えますが、目を凝らしているとさっといなくなっちまうもんだから、あれやっぱりヤモリか? 違うちがう、これはでっかいトカゲだ。そんなわけあるか、と一人で首を捻ってばかりでございました。     
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