黒助様

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あっちから顔を出せば、そらこっちだ。こっちから顔を出せば、それあっちだと延々繰り返しても黒いものの正体はとんとわかりません。 そうしていくと、不思議なもんでね。だんだん、その黒いものにおちょくられているように感じてきました。こっちが追い詰めているとばかりに思ったのに、そいつはなんだか意気揚々と姿を見せては隠れて、自分を嗤っているんだ。 そう、思うとね。巳之助も、棒の扱いが暴力的になり、草を分けるんじゃなくて、その黒いものめがけて振り下ろすようになりました。 そいつがどうやら生き物じゃなさそうだ、ということも巳之助の良心を殺ぎ取るのに功を奏しましてね。それでは何なんだ、というわけではあるんですが、単に黒いだけのモノです。巳之助も怖がりようがありません。 そら、どうだ。このすばしっこい根性悪め。 逃げるだけしかない能無しめ! 棒を振り下ろしているうちに、いつのまにか、その黒いものが、巳之助を嗤ったあの番頭に見えてきました。そうすると、巳之助の棒きれを振り下ろす右手にも力が入ります。 やい、お前はいばりんぼうのイジワル虫だ! おいらが退治してやるぞ!     
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