黒助様

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そうやって、叩き下ろしていますとね、いくつか黒いものに枝があたるようになりました。当たると、ビクッとするんですよ。ちょっと縮こまって、さっきまですいすい草の間を移動していたのに、怯えるようにそこにうずくまるんですわ。もう、巳之助には、その黒いものは番頭の顔にしか見えません。バンバンバン、と叩き潰すと、その黒いものは体といいますか、途中の部分がぐねっとしましてね。そのまま、体を引きずって草の中へと隠れてしまいました。 どうだ、見たか! 巳之助は高笑いすると、すーっと、本当にすーっと心が晴れていくのを感じました。 その日は、むしろいつもよりも良い気持ちで床についたそうです。 次の日、巳之助は気持ちを入れ替えまして、野菜を売り歩きました。さすがに、昨日追い払われたお屋敷には近づかずにおきましてね。 そんなこんなで、半分くらい野菜を売りまして、ちょっくら休憩、昨日の丘を目指しておりますと、目の前がくるりと回りました。あれれ、と思っているうちに、ネギの青さが空と重なり、気付いた時には、腰へ激痛が走りました。やあ、相当大きい音だったんじゃないでしょうかね? 巳之助は痛みで目が回っておりまして、何が何やら。 すると、頭の上の方から、笑い声が聞こえてきました。 ざまあねえな。おめえみてぇな汚ねえ野郎は地べたを舐めるのが似合いだぜ。 こんな言葉、坊っちゃんたちはお遣いになっちゃあだめですからね。 見上げると熊のように大きな男が、薄汚い歯を見せて、足元の野菜をこれでもかと踏んづけておりました。 なんだってあんたはこんなことをー 巳之助の言葉は続きません。大男がどしん、と巳之助の背中に足をのっけたからです。     
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