2人が本棚に入れています
本棚に追加
そうやって、叩き下ろしていますとね、いくつか黒いものに枝があたるようになりました。当たると、ビクッとするんですよ。ちょっと縮こまって、さっきまですいすい草の間を移動していたのに、怯えるようにそこにうずくまるんですわ。もう、巳之助には、その黒いものは番頭の顔にしか見えません。バンバンバン、と叩き潰すと、その黒いものは体といいますか、途中の部分がぐねっとしましてね。そのまま、体を引きずって草の中へと隠れてしまいました。
どうだ、見たか!
巳之助は高笑いすると、すーっと、本当にすーっと心が晴れていくのを感じました。
その日は、むしろいつもよりも良い気持ちで床についたそうです。
次の日、巳之助は気持ちを入れ替えまして、野菜を売り歩きました。さすがに、昨日追い払われたお屋敷には近づかずにおきましてね。
そんなこんなで、半分くらい野菜を売りまして、ちょっくら休憩、昨日の丘を目指しておりますと、目の前がくるりと回りました。あれれ、と思っているうちに、ネギの青さが空と重なり、気付いた時には、腰へ激痛が走りました。やあ、相当大きい音だったんじゃないでしょうかね? 巳之助は痛みで目が回っておりまして、何が何やら。
すると、頭の上の方から、笑い声が聞こえてきました。
ざまあねえな。おめえみてぇな汚ねえ野郎は地べたを舐めるのが似合いだぜ。
こんな言葉、坊っちゃんたちはお遣いになっちゃあだめですからね。
見上げると熊のように大きな男が、薄汚い歯を見せて、足元の野菜をこれでもかと踏んづけておりました。
なんだってあんたはこんなことをー
巳之助の言葉は続きません。大男がどしん、と巳之助の背中に足をのっけたからです。
最初のコメントを投稿しよう!