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おめえが誰だかはしんねえが、おらの目の前を通ったのが運の尽きだ。金、よこしな。
少しずつ、少しずつ息が苦しくなっていきます。大男が足に体重をかけ始めたもんですから、巳之助も恐ろしさに震え上がりました。
こいつは、本物の狂人だ。
こんな大男の体重をそのまま受けたら、背骨がポキリと折れてしまいます。
金は、こんれ、ここだ。
声は言葉になってたかもわかりませんが、血反吐を吐く思いで、声を出しまして、腰につけていた巾着を手探りで探し当てて放り投げました。チャリン、とした音に反応したのか、大男の足がのいて、身体が軽くなります。
でも、巳之助にはするりと立ち上がる気力はもうありません。できれば、遠くの隣町まで逃げて逃げて逃げきりたいところなんですが、昨日のせいで足も力は入らないし、背中はジンジンするしで、火事場の馬鹿力も出ません。これもまあ巳之助の運のないところでございましょう。
これっぽっちか。そんなら、おめえ、また明日金持ってこい。持って来なけりゃ、今日より酷い目にあわせっからな。
声と仕返しの恐ろしさに巳之助は震え上がり、小刻みに頷くばかりです。
ぺっと唾をはくと、その大男は金を片手に意気揚々と引き上げていきました。
地べたにねっ転がったまま、巳之助の顔は涙に濡れていました。
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