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0 Grayish
「すみません、お嬢さん」
ややあって声のした方へ振り向くと、リズはあっと声を上げそうになった。
見上げる程背の高い人物が立っていたのだ。
彼女の父親も大陸民でも群を抜いて長身だが、それ以上かも知れなかった。彼女一人と半分は絶対にあるだろう。
加え、よく見るまでもなく、彼は異様過ぎる風体をしていた。
純白の布地に翠緑の流水状紋を刺繍したローブで全身を包み、フードで頭部を覆い、顔にも同様の意匠の仮面を付けている。
ローブのゆったりと開いた袖から僅かに手が覗いているが、銀の金属光沢じみた艶を持つ手袋をはめている。
つまりは、隙間が一切ないのだ。
たかだか十二歳のリズにはまだ、これが大陸中央部で信仰されている、ある種の龍を創世神と崇める、そう有名ではない宗教の教徒の出で立ちだとは知る由もなかった。
リズが驚愕と恐怖に固まっていると、白衣の人物は流麗な動作で身を屈めた。
双方の顔の高さがちょうど同じになる。
仮面から覗く眼が、リズを真っ直ぐに見ていた。
透明感のある黄玉色で、宝玉のようだ。
少女はどぎまぎした。その典雅な雰囲気に、危険人物に違いないという第一印象は撤回された。
「えっと……」
「驚かせたようで……突然申し訳ありません。“多軸回廊都市”はどちらにあるかご存知ですか? 土地勘に乏しいもので……」
リズはそばかすだらけの頬をかあっと赤らめた。
改めてきちんと聞くと、この異人の声は低く良く響き、同時に透き通るように美しい。
仮面の下の顔もそれに相応しく秀麗に違いない。少女はぼうっと夢想した。
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