0 Grayish

1/5
前へ
/48ページ
次へ

0 Grayish

 「すみません、お嬢さん」  ややあって声のした方へ振り向くと、リズはあっと声を上げそうになった。  見上げる程背の高い人物が立っていたのだ。  彼女の父親も大陸民でも群を抜いて長身だが、それ以上かも知れなかった。彼女一人と半分は絶対にあるだろう。  加え、よく見るまでもなく、彼は異様過ぎる風体をしていた。    純白の布地に翠緑の流水状紋を刺繍したローブで全身を包み、フードで頭部を覆い、顔にも同様の意匠の仮面を付けている。  ローブのゆったりと開いた袖から僅かに手が覗いているが、銀の金属光沢じみた艶を持つ手袋をはめている。  つまりは、隙間が一切ないのだ。  たかだか十二歳のリズにはまだ、これが大陸中央部で信仰されている、ある種の龍を創世神と崇める、そう有名ではない宗教の教徒の出で立ちだとは知る由もなかった。  リズが驚愕と恐怖に固まっていると、白衣の人物は流麗な動作で身を屈めた。  双方の顔の高さがちょうど同じになる。  仮面から覗く眼が、リズを真っ直ぐに見ていた。  透明感のある黄玉色で、宝玉のようだ。  少女はどぎまぎした。その典雅な雰囲気に、危険人物に違いないという第一印象は撤回された。  「えっと……」  「驚かせたようで……突然申し訳ありません。“多軸回廊都市(アクシズ)”はどちらにあるかご存知ですか? 土地勘に乏しいもので……」  リズはそばかすだらけの頬をかあっと赤らめた。  改めてきちんと聞くと、この異人の声は低く良く響き、同時に透き通るように美しい。    仮面の下の顔もそれに相応しく秀麗に違いない。少女はぼうっと夢想した。      
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加