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「お嬢さん?」
「あ、ええっと……」
訝し気な声に現実に引き戻され、更に顔を赤らめる。少女は気恥ずかしさと共に彼の後方を指さした。
「この通りを……まっすぐ行って、突き当たり……検問所があるので、その先。門みたいなところ、です」
彼は振り返って首を巡らせた。視線の先には、人通りのまばらな灰白色の街並みが広がっている。伝統的な軒を造る、近隣の石場から切り出された材の色だ。
長い歴史の中で様々な分野に亘り技術は進歩してきたが、この街景は堅持されてきた。
ただし、それは積極的な文化の保存とは違う。
数十年、場合によっては百年以上の耐久性がある材質を無理に変えるより、他のより重要なものに金銭なり資源なり、時間なり費やしたいだけであった。
そんな事情など無論知る由もない彼は、しばしリズに背を向けたまま、じっと動かなかった。
表情は全くうかがい知れないが、きっと異国の見慣れない街景を興味深く眺めているのだろうと、何となくリズは想像した。
「成程、あれですね。ありがとうございます」
「あ、はい……ありがとう、ございました」
何故か少女も頭を下げて礼を言いながら、なおも夢見心地のような、奇妙な感覚を抱いたまま門の方へ歩みゆく彼を見送った。
そこに、やや駆け足で一人の女性が寄ってくる。
露店で買ったばかりの品物を詰め込んだ樹皮の鞄を提げたリズの母親だ。
ちらりと去ってゆく白衣の人物の背に視線を寄越す。
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