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「おまたせ。まあ……リズ、今の方は?」
「なんか、道を聞かれた。都市は何処だって。外国の人……だと思う。すごく大陸語が上手かったけど」
「そうなの。それじゃあ、きっと東から来たのね」
連れ立ってとぼとぼ歩きながら、リズは小さな首を傾げた。
「何で?」
「お父さんから聞いたんだけど、最近、増えているんだって。都市の方に行きたいっていう東からの人達。特に学者さんとか、術師の方の数が増えているみたいよ」
「そうなんだ…。何かあるのかな?」
「そうねえ……」
上手く返答できずにいると、リズが無邪気にぽつりと言った。
「私も都市に住みたいなあ」
母親の顔が、一瞬曇った。
自分の表情に気付き、慌ててリズの顔を伺うと、幸いなことに自分を見ていなかった。絢爛豪華と噂される雲上人達の暮らしぶりを想像しているのだろうか。白衣の人物の消えた方角を見やる表情は明るい。
母親はすぐに表情を消すと、何処か弱々しい微笑みと、消えゆくような言葉を娘の横顔に投げかけた。
現実は過酷だが、子供の夢を潰したくはない。そう滲ませて。
「そうね。いつか……家族みんなで住みましょうね」
傾いだ西日が、色味を喪った街を、赤く染め始めた。
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