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――人間の小娘と別れたあと、彼は成功を確信し、力強い足取りで歩いていた。
外門通過後すぐに“都市外層民”と思しき子供と接触できたのが、まずもって幸運だった。
なまじ大人よりも遥かに簡単なのだ。道を聞くふりをして、人間固有の氣の流れをじっくりと観察し、虹彩の情報を奪取するのは。
人通りが少ないのもまた幸運だが、生体反応を誤魔化せる今となっては、正体が露見する可能性は限りなく無に近くなったも同然だ。人間に怪しまれようが何をしようが、全く問題ではない。まさか、"敬虔なアルターヴァ教徒”の衣服を引んむく不届き者などいるはずもないのだ。
そして、都市の検問でも、生体反応と身分証明書の類だけが問題にされることは調査済みだ。
彼は前もってある筋から聞いていた。
曰く――理論の精緻化や多種多様な補助器具の開発に伴い、いわゆる“天性の才能”の持主のみならず、凡百の人間にも等しく“流詠術士”の門戸が開かれた結果、大陸全土で術士の数――それも、非常に練磨された熟達者が増加している。
その数は実に十年前と比較して年間の候補生は八倍、資格試験を通過した者は五倍に増えている。教育体制の充実ばかりではなく、城壁の外の通商路で異形化した怪物に襲われる事故数の増加など、大陸全土で危険が高まっていることによる、需要の増加もあるのだろう。
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