4人が本棚に入れています
本棚に追加
鍛錬された彼らの嗅覚は非常に優れている。素人ならばいざ知らず、少しでも異臭をさせたら、容易くかぎ取られてしまうだろう。――
この場合の異臭とは、生体反応のことである。
だから、初動で人間のそれを十分に観察し、奪うのは重要だったのだ。
単純な戦闘力では上回る個体は確かに存在するが、自分程氣を複雑怪奇に操ることに長けた者はいない、彼はそう自負してやまない。
それこそ、自らの氣を誤魔化し、他の生物を装ってみせる者の存在など、都市が想定していないように。
彼は白んだ街並みを通り抜ける。全身を巡る気を整形し、文字通り眼の色も変え、馴染ませ――先程の小娘から得た情報の通りに、自分を偽りながら。
あとは、さる者の手を借りて完璧に偽造した書類を見せるだけだ。
いつの間にか、彼の眼前には灰白色の門が構えられていた。
そう大きくもないが、彼よりもやや高く、厳重に閉じられてため、向こう側は全く伺い知れない。
彼は押し留められるように立ち止まり、深い呼吸をした。
此処が無彩色の街の終わりだ。
その先には極彩色の全てがある。
“多軸回廊都市”――時の白砂に埋もれた過去、変容し続ける現在、空想と可能性のみで推し量る未来。
脳裏を一瞬、今までの長い道程がよぎった。
だが、都市で望むものを手に入れたならば、苦労などなかったに等しいと思うだろう。彼はそう確信している。
ローブの袖に入れたものをつと意識し、息を長く吐き出すと、彼は門に向けて歩みだした。
最初のコメントを投稿しよう!