第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 この世界には僕らの住むこの北の塔のほか、4つが存在する。北東の塔、南東の塔、南西の塔、そして北西の塔。それぞれの塔の頂上には結界師がおり、5人の結界師はその総力を以って外部の劣悪な環境を遮断し人間の住める世界を構成している。その一つである北西の塔に僕らのお祖父さんがいると言うのだ。塔の関係者ならばその人間としての信頼性は非常に高いし、安全に保護してもらえるだろう。しかし5つの塔の一つが焼失したともなると、母さんの言った「大事件」では済まないほどの深刻な事態だろう。他の塔も対応などで怱々としているに違いない。そんな状況の中訪ねたとしても、取り合ってもらえるのだろうか……?  頭に浮かぶ不安を一つ一つかき消すように梯子に足をかけていく。永遠に続くかと思うほどの長い梯子をようやく登り切り、地下と地上とを結ぶ扉を開けると、塔全体が一望できる場所に出た。僕にとっては初めて踏みしめる地上の大地だったが、感慨に耽る余裕はなく、目に入った近くの森へと身を隠した。  陽は沈みかけ、辺りは薄暗くなっていたが塔の周りだけは炎の赤が空を色付けていた。一見したところ塔はほぼ骨組みだけとなりその原型は見る影もなくなっていたが、何を燃やしているのか、火炎だけはしぶとくへばりついていた。
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