第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 母さんの声は依然として脳に流入していた。ここから自力で逃げるには、走るにしても飛ぶにしても時間がかかりすぎる。習得して間もない魔法ではあるけれど、空間転移魔法を使いなさいーー  空間転移魔法はその名の通り空間を転移する魔法である。物体や生物を任意の場所へ一瞬で移動させることができる魔法で、手練れの魔法使いなら付近の自然・建造物ごと移動させたり、大人数を一度に転移させたりすることなども可能だ。 「いいかい、ミシェル」ぼんやりと虚を見つめるミシェルに呼びかける。「今から空間転移魔法を使って北西の塔へ行く。僕らのお祖父さんがいるらしい」 「お祖父さん……?」僕のその言葉にミシェルはわずかに反応し、顔を上げた。 「そうだ。ひとまずはお祖父さんのところに逃げるんだ。これからどうするかは、お祖父さんに会えてから考えよう」  ミシェルは「わかった」と先ほどよりは生気を取り戻した声で呟いた。少しづつ状況を飲み込めるようになってきたのか、不安そうな表情ながらも彼女は周囲を見回した。「赤い軍隊が来るかもしれない。早く逃げた方がいいわ」     
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