第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 赤い軍隊とは、先ほど彼女が言っていた赤い軍服の兵たちのことだろう。「赤い軍服」といえば、帝国軍の赤軍と呼ばれる部隊が連想される。本で読んだ知識を呼び起こす。この国の軍隊は赤軍と青軍で構成されており、それぞれ得意とする分野を担っている。青軍は中・遠距離攻撃、結界や治癒などを、赤軍は近接攻撃、肉弾戦、国の有事の際の対処を主に行う。その赤軍が今回の騒動でこの場にいてもおかしくはない。しかしなぜ、母さんを殺した? 赤軍に見つかれば、僕らも殺されるのだろうか。  僕はミシェルの言葉に頷き、短剣を取り出した。 「今から空間転移魔法を使う。この剣を一緒に握って」ミシェルはコクリと首を縦に振り、僕が剣を握る手の上に両手を重ねた。僕はもう片方の手を、彼女の両手を覆うように添えた。 「じゃあ行くよ」 「うん」  ミシェルと短く言葉を交わし、剣を握る手に力を込める。そして思念する。ーー剣よ、僕らを北西の塔まで移動させてくれ。  次の瞬間、カッと剣が光り輝いた。その強すぎる光に目がくらみ、目を開けているはずが何も見えない。周囲も光に飲まれたのか、認識できるのは白一色の空間のみ。と同時に、体感したこともない強風がどこからともなく吹き荒れる。あまりの風に呼吸はできず、肌は削り落とされそうだ。二人分の衣服がバサバサと摩擦音を立てはためき、そのうちごうごうと風自体が喚く。  視覚は言うまでもなく五感すら曖昧となっていく。意識も遠のく。ミシェルはちゃんとそこにいるだろうか。無事に北西の塔へ転移できるだろうか……。意識を手放す直前、母さんの優しい声がした。 「生きて、生き延びて、そして幸せに暮らしなさい」
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