第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

11/13
前へ
/45ページ
次へ
 さわさわと、葉が風に揺れる音がした。地下深くの書庫では聞こえるはずもない音だ。また僕は毎回虚しくなるだけとわかっているのに魔法で外の世界を見ているのだろうか。それともこれは夢だろうか。それにしては流れる風の肌寒さや寝そべった地面の感触、草や土の湿った匂い、目を閉じていても感じる陽光の眩しさ、どれを取ってもリアルだった。魔法で擬似的に外出しているのとは比べ物にならないほどの生々しさ。  僕は、今、外にいるーー?  ここまできてようやく目が覚めた。おぼろげな頭も回り出す。そうだ、僕らは昨日母さんも住まいであった塔も失い、訳も分からず逃げてきたのだ。ここはどこだろう。時折吹き抜ける風はやや冷たかったが、ぼんやりとする頭を覚醒させるには役立った。  葉音の根源である緑色の円筒状の植物は地面から細長くそびえ立ち、周囲に無数に生い茂っている。枝葉に覆われた空の隙間から漏れる光が地面に揺れる模様を描く。実際に目にするのは初めてだが、これはおそらく竹という植物だ。竹が自生しているということは、ここはもしかすると東の土地だろうか。北西を目指したはずが、東に飛んでしまうとは。  とはいえこれから北西の塔へ向かえばいい話だ。右手には自身の魔力表出媒体である短剣をしっかりと握り締めていた。よかった。転移の最中に失くすようなことはなかったらしい。では、ミシェルは?
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加