第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 ふと気づくと背中に体温と息遣いを感じる。ミシェルも一緒に転移できたらしい。安堵と共に振り返ると、目に映ったのは見たこともない少年だった。一見したところ年齢は僕と同じくらいだろうか。黄土色の布をマントがわりにまとい、その下には黄みがかった赤の軍服を着ているようだ。麦わら色に近いまっすぐなブロンドは首の付け根ほどの長さに整えられている。 「だ、誰だ? 君は……」  反射的に問いかけたが返事はない。意識を失っているのだろうか、苦しそうな呼吸で肩を上下させている。よく見ると胸のあたりが赤黒く染まっている。「怪我をしているのか」独り言半分にそう聞いてみるがやはり返事はなく、それどころか少年は先ほどより呼吸が短く息も絶え絶えの状態だ。  治療をしなければ。頭で考えるよりも先に体が動いていた。短剣を握り、患部を露出させる。おそらくは刺傷だろうと予想し、軍服を脱がせたところで僕は硬直した。  彼ーーいや、彼女は軍服の下に包帯を巻き、その豊かな胸を覆っていたようだった。包帯は刺された際に破れ、はだけた隙間からは紅く色付いた二つのーー  そこまで考えて胸の下、腹部の上方あたりの傷が目に入り、我に返る。そうだ、治療をするために服を開いたのだ。それに中を見るまでは男だと思っていたのだから、これは不可抗力だ。  やはり傷は刺傷のようだった。それもかなり深い致命傷だ。放っておけばあと数分で絶える命かもしれない。僕は刃を下に向けた剣を両手で握り、深く息をつく。そのまま剣をゆっくりと彼女の傷へと刺し入れていく。傷を治すために再び剣で刺すなんて、矛盾した話だ。  刺し入れた剣から彼女の体内の情報が脳に流れ込んでくる。目を閉じその情報に集中すれば、自ずとどうすれば良いのかがわかる。傷ついた内臓の修復、分断された神経の結合、皮膚の癒着、細胞の活性化。全ては剣の導くままに。僕は剣に従い魔力を注ぎ続けた。
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