第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

13/13
前へ
/45ページ
次へ
 さすがにここまでの傷の治療にあたるのは初めてだが、治癒魔法を使うこと自体は初めてではなかった。母さんやミシェル、あるいは僕自身の日常のちょっとした擦り傷や切り傷、火傷程度なら数えきれないほど治してきた。たまにミシェルが剣術の授業で怪我をしたと言って骨折や切創、刺傷、裂傷などを負って帰ってくることもあり、それらの治療をしたこともあった。重傷を負った妹を見るのは痛々しく、ここまでの怪我をするほどの授業とは如何なものかとその都度疑問に思っていたものだ。ミシェルの話によれば剣術や体術の授業ではその程度の怪我は日常茶飯事らしく、皆怪我を負っては治癒魔法班の駐在する保健室へ駆け込むそうだ。彼女曰く、うちには優秀な治療班が駐在しているから保健室よりも自宅に駆け込んだ方が早いらしい。彼女の口のうまさに完封され、調子のいいやつと思いながらも僕は毎度治療にあたるのだった。  しかし妹や母さんには見せないようにしていたが、治す怪我が重ければ重いほど、治療に注ぐ魔力も多くなり、僕自身も消耗してしまっていた。骨折を治した直後にはひどいめまいに襲われ立っていられなくなったため、ベッドへ直行し横になった。めまいのような症状になることもあれば、微熱が出ることもあった。しかしいつも程なくして治るため、魔力の欠乏症のようなものだろうかとそのままにしてしまっていたのだ。  そのことを思い出したのは、目の前の少女の傷を塞ぎきった頃だった。剣をゆっくりと抜くと、たちどころに傷は癒着した。傷のひどさにしては、痕が残らなかった方ではないか。しかし相手は女の子だから、もし気になるようなら魔力が回復した後でもう少し綺麗に傷跡を消してあげよう。少女の体から剣を引き抜くと同時に僕は平衡感覚を失うようにして地面に倒れこんだ。全身の熱さと泥のような眠気に襲われ、そのまま再び意識を失った。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加