第二章 指名手配犯の騎士

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第二章 指名手配犯の騎士

 見慣れたリビングの一角、母さんに泣きつく幼少の僕がいる。それを僕は他人のように見つめている。きっとこれは記憶だ。どうしてミシェルは学校へ通えるのに僕は学校はおろか住居スペースの外に出ることさえ叶わないのか、そう訴えて泣いた時の記憶。  母さんが僕の頭を撫で、切なそうに笑顔を浮かべる。次の瞬間、周囲の景色は足元から円形に広がるように姿を変えていく。絨毯を敷いてあった床は青々と茂る芝生に、屋根や壁は取り去られ、代わりに無限に広がる青空と緑の平野。どれほどかわからないくらい遠くには山の輪郭が見える。その圧倒的な開放感に飲まれ辺りを見渡す以外に何もできない僕を傍らに、母さんは人差し指を小さく振る。すると草原の景色は目に追えない速さで動き出し、野を超え山を越え、やがて海の見える小高い丘にたどり着いた。     
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