第二章 指名手配犯の騎士

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 なぜ、生かしたか……? 彼女は何を言っているのだろう。目の前に今にも死にそうな人間が倒れていたら、誰だって助けようと思うんじゃないのか? 「ええと、ごめん。君がどうして怒ってるのかわからないけど、目を覚ましたら隣に君が倒れていたんだ。深手を負っているようだったから、治した。それだけだよ」 「それだけ……か。そのせいでお前は丸一日熱でうなされ寝込むことになったのにか」 「え、僕、丸一日寝込んでたのか?」  そうだ、と少女は頷く。まさか副作用がそこまで酷くなるとは予想外だったが、考えてみれば致死の傷を治したのだ。それ相応の反動があっても不思議ではない。彼女はその間、僕を介抱してくれていたようだ。肩にかけてあった彼女の羽織が下がり落ちる。 「介抱してくれたのは感謝するけど、初対面の、しかも命の恩人に向かってお前とは失礼じゃないか。僕にはシャルルという名前があるんだ」 「私に恩を売るつもりか。助けてくれと頼んだ覚えはない。それにお前こそ、私が誰か知らないのか?」 「知らないよ。有名人なのか?」  尊大な態度にあっけにとられながら返す。彼女はため息をつき立ち上がる。ついてこい、と言わんばかりにこちらを振り返り、竹薮の中を進んでいく。彼女の後を追うとやがて崖に出た。崖からは一面に広がる街、そして北東の塔と思しき5つの屋根のある塔を確認できた。     
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