第二章 指名手配犯の騎士

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 周りの兵をなぎ払い姫の元に駆け寄ると、姫はティファニーの元へと倒れこむ。この様子が先ほどの映像で流れていたものだ。いくらもしないうちに、姫は彼女の腕の中で息を引き取った。長年忠誠を誓った姫の死を悟った彼女は、怒りに任せその場にいた兵士を全滅させ、彼女自身も腹部に致命傷を負った。そうして自暴自棄になり塔から飛び降り、この竹林のある山へと逃げ込んだのだった。 「そしてこの竹林の中で意識を失い、次に目覚めた時にはお前が横で倒れていた」 「だから、シャルルだって」  ティファニーは時折怒りを内包した悲痛な表情を浮かべる。その表情は彼女にとって十六夜姫がどれほどの存在であったかを表していた。姫を殺してなどいない。彼女のその言葉は紛れもない真実なのだろうと僕は確信した。そして彼女の言葉を思い出す。「なぜ生かしたのか」、それは彼女自身がーー致命傷を負い死を悟ったのもあるだろうがーー自分は死んで当然と思うほどの罪の意識に囚われているということではないか。 「つまり君は、死ぬつもりだったのか」 「……」  ティファニーは無言で頷いた。 「私は死ぬはずだった。姫様を守るためだけに生きてきたのに……姫様は私に何もかもを与えてくださったのに、それなのに、その恩をお返しするどころか、肝心な時に大事な役目すら果たせない私は、死んで当然だ」  こんな時に、何と言葉をかけてあげれば良いのだろうか。自分を死んで当然と思うほどの深い悲しみと自責の念に駆られている少女を前に、僕には何ができる?  思い浮かぶのは、母さんに泣き縋る幼い僕。母さんはそんな僕を抱きしめ、頭を撫でてくれた。     
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