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「つらい思いをしたんだね」
母さんに倣って、ティファニーを抱き寄せる。右手で背中を、左手で頭を撫でる。触れた手から、体幹から彼女の体温が伝わる。こんな風に誰かを抱きしめるなんて、初めての経験だ。母さんが慰めてくれたのはずっと昔のことだし……。そう考えると途端に心臓が激しく脈打つ。
「……どういう意図で助けたのかと思えば、そういうことだったのか……」
「え?」
刹那、背中が地面に叩きつけられ、気付いた時には僕は仰向けで彼女の顔を見上げていた。彼女の手には鞘に収まったままの刀が握られ、その先端を僕の喉元へと当てがった。
「私は姫様は断じて殺していないが、お前一人殺すくらい造作もない」
「えっと、ごめん、また怒らせちゃったかな……?」
彼女の瞳は幻滅の色を帯びていた。やがて剣を下ろし立ち上がると、先ほど向かった崖とは逆方向に歩き出す。
「どこへ?」
「関係ないだろう」
ティファニーはもう僕には用はないと言わんばかりに素早く歩みを進めていく。完全に信用を失ってしまったようだ。彼女が一般人だったなら話は違ったかもしれないが、塔の関係者だというからにはもう少し情報を集めておきたい。そんな打算が頭の片隅にちらつく。
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