第二章 指名手配犯の騎士

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「つらい思いをしたんだね」  母さんに倣って、ティファニーを抱き寄せる。右手で背中を、左手で頭を撫でる。触れた手から、体幹から彼女の体温が伝わる。こんな風に誰かを抱きしめるなんて、初めての経験だ。母さんが慰めてくれたのはずっと昔のことだし……。そう考えると途端に心臓が激しく脈打つ。 「……どういう意図で助けたのかと思えば、そういうことだったのか……」 「え?」  刹那、背中が地面に叩きつけられ、気付いた時には僕は仰向けで彼女の顔を見上げていた。彼女の手には鞘に収まったままの刀が握られ、その先端を僕の喉元へと当てがった。 「私は姫様は断じて殺していないが、お前一人殺すくらい造作もない」 「えっと、ごめん、また怒らせちゃったかな……?」  彼女の瞳は幻滅の色を帯びていた。やがて剣を下ろし立ち上がると、先ほど向かった崖とは逆方向に歩き出す。 「どこへ?」 「関係ないだろう」  ティファニーはもう僕には用はないと言わんばかりに素早く歩みを進めていく。完全に信用を失ってしまったようだ。彼女が一般人だったなら話は違ったかもしれないが、塔の関係者だというからにはもう少し情報を集めておきたい。そんな打算が頭の片隅にちらつく。     
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