第二章 指名手配犯の騎士

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 取り立てて言及する特徴のない無個性な男。それが北の塔の結界師の正体らしい。結界師とは皆似たような地味な雰囲気の人物なのかと試しに他の塔の結界師の特徴を聞いてみたが、北の塔の結界師の地味さが強調されただけだった。  南東の塔の結界師は獣人。犬の血を引く男らしい。南西の塔には豊かな資源を活用し富を築いた王が君臨し、北西の塔では龍使いの老父がその土地を治めている。そして北東の塔の十六夜姫は、若干8歳にして結界師としての能力を開花させた実力者である。  ティファニーいわく、北東の塔の十六夜姫は「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という諺を体現したような美しい女性で、その上慈悲深く常に民の安全と平和を願っていたという。8歳という若さで結界師の実力を確立させて以来、塔の上に縛り付けられその一生を結界の維持に捧げることになっても、自分にしかできない役割ならばと彼女はその運命を受け入れた。身寄りのなかったティファニーを専属の騎士に任命したのも十六夜姫であり、ティファニーの衣食住は十六夜姫によって保証されたのであった。 「そのお姿はさながら現世に降り立った女神でーー」  十六夜姫について語るティファニーは出会ってから初めて見せる生き生きとした、また穏やかな表情をしており、彼女がいかに十六夜姫を慕っているかが見て取れた。   「ティファニーは、十六夜姫のことを本当に想っていたんだね」 「か、過去形ではない、今もだ」     
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