第二章 指名手配犯の騎士

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 僕は彼女の手首を掴む。さすがに塔の最高権力者である結界師の近衛兵をしていただけあって、僕の力では振り払えないほどの力強さだ。それでも、手首を握る手に力を入れる。自分の心臓の音が分かるくらいに激しく脈打っている。頭に血が上っている。一方で、妙に冷静な自分がいる。ここまで感情的になったことなんて、これまでの人生で一度もないんじゃないか? 「姫様を守れなかった贖罪のために死んだとしても、それは君の自己満足だろう」 「自己満足でも構わない! 姫様のいないこの世界など、どうなったっていい。生きる価値もない……」 「そんなこと言うなよ!」  彼女の手が緩んだ一瞬に、胸倉の手を振りほどく。同時に、今度は僕が彼女の両肩を掴む。死にたがる彼女に対してどうしてここまで怒りを感じるのか。自分が助けた命をむやみに落として欲しくないから? それも理由の一つかもしれないが、きっとそれだけではない、言葉にできない感情に突き動かされていた。 「僕は君に死んで欲しくない。君が結界師を殺した殺人犯だと大衆に誤解されたまま死ぬなんて耐えられない。だから」  困惑しきっているティファニーの瞳を見つめる。自分でも何を言っているんだろうと思うが、口は勢いよく言葉を紡ぐ。 「僕は君の無実を証明する」     
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