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彼女を説得する言葉は他にもあっただろうと思う。「姫様がこれまで守ってきたこの世界を、もっとよく知らなくていいのか?」とか、「きっと君はずっと姫様のために生きてきたんだろう? だったら、これからは自分のために生きるべきだ」とか。だけど僕の口から飛び出してきたのはそのどれでもない、「死んで欲しくない」などというなんとも身勝手な言葉だった。しかも無実を証明すると約束までしてしまった。
「死んで欲しくない、だと……?」
僕の言葉を耳にしたティファニーは反芻する。信じられないものを見るような目で僕を見る。その双眼は困惑と怪訝に満ちていたが、その一方で、彼女自身も体現できない感情を帯びているようだった。あるいは、それは僕の希望的観測にすぎないのかもしれないが。
「あ、その、姫様もきっと君の死なんて望んでないよ……。それに、赤軍は僕の母さんの仇でもあるし、赤軍が姫を殺したっていう君の言葉の方が僕にとっては信じたい事実でもあるんだ」
今更もっともらしい言葉を並べてみるが、時すでに遅し。またしても彼女を怒らせてしまったに違いない。さっきは刀を突きつけられたことだし、次は本気で切りかかってくるだろうか。
「そうか」と彼女はずっと噛み切れなかったものを飲み下したかのように呟き、俯く。長めの前髪と顔の左右の髪が垂れ、表情が隠れてしまった。次に顔を上げた時には、僕に見せている時間が一番長い、無表情に近い真剣な表情に戻っていた。
「だったら、証明してみせろ。私の無実を」
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