第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 ミシェルはニヤリと口角を上げて言う。僕より少しだけ早起きな妹は飽きずに毎日このような嫌みで僕の目覚めを迎えてくれるのだ。それに対し僕も飽きずに皮肉で返す。「おはよう、今日も僕より6分だけ早起きなミシェル様」  6分と言う時間は正確に計測していたわけではなく、ミシェルの髪型の出来と朝食の進み具合からそれらしい数字をあてがっただけだ。彼女は母にも僕にも似つかない朱色のまっすぐな髪を耳の下あたりで二つに束ねている。稀に寝坊した日を除き、彼女の髪はいつも小綺麗に整えられている。この髪のセットに約3分、朝食のトーストを半分ほどたいらげスープに口をつけるまでに約3分と見込んでの6分という数字だ。しかし喜ぶべきか悲しむべきか、彼女は僕に嫌みを言い放ったその瞬間から僕への興味が0となるため、僕の返答の正確性は必要ないのである。  ミシェルは朝食をたいらげるや否や、通学鞄の傍に置いた片手剣に手を伸ばす。長さ70cmほどの淡いオレンジ色をした剣。片翼を広げたような形の(つば)の中心には彼女の髪と同じ朱色の宝石がはめ込まれている。これが彼女の魔力表出媒体である。剣を鞘から抜き一振りすれば、彼女の服装はたちまち寝巻きから通学用の正装へと変化する。魔法で着脱の過程を省略するからといって男兄弟の前で着替えてしまうデリカシーのなさには呆れるが、当の本人は無頓着そのものだ。かくして彼女は魔法で早々に準備を済ませると、塔の上層階の魔法学校へと急いだ。
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