第一章 桎梏《しっこく》の塔の強襲

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 異変に気付いたのは夕暮れ時。普段であれば天窓からの日差しが書庫内を橙色に染める時刻だった。室内の暗さからもう夜になってしまったのかと焦ったが、見上げると天窓の外は曇り空のような景色になっていた。朝から晴天だったはずだが、天気が変わったのだろうか。そんな能天気な予想をしながら近くにあった照明に手を伸ばしたところで、上階の物音の慌ただしさに気付く。一度周囲に意識を向けると普段と違う状況が次々と感知できた。異常なまでの熱気、かすかに感じる異臭、人々の阿鼻叫喚……。天窓から視認できる外の様子も曇り空というよりは分厚く靄がかったーー  これは、煙だ。煙に覆われている。  そう認識した瞬間、全速力で飛び立ち上階の生活スペースを目指した。母さんは無事か? 妹は?通常ならばそろそろ帰宅する頃合だろうか。リビングへ足を踏み入れると、中では母さんがテーブルの周りを右往左往していた。 「シャルル!」 「母さん!無事で良かった。何が起こっているんだ?」 「何が……そうね、一言で言うと大事件かしら」 「それはそうだろうけど!」  さすがの母さんも動揺しているようだ。事態を飲み込めないのは母さんも同じなのだろう。まずは状況を把握するために僕は提案した。「とにかく外の様子を確認しよう」  ハッとして落ち着きを取り戻した母さんは消えそうな声で「そうね」と呟き投影魔法を展開した。現在の外の風景を眼前に大きく映し出す。 「これは……」  僕らは絶句した。僕らの住む巨大な塔、それが炎に飲まれ音を立てて崩れていく。 「大変だ! すぐに逃げないと……」そう言って母さんを見るといつになく険しい目つきで映像を見つめていた。状況から鑑みれば当然のことだが、なぜだか僕には、母さんが僕らには伝えられない事情を知った上で、何らかの重大な決意をしたーーそんな風に見えた。
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