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どれほどの本を読み終えただろうか。塔を食い荒らす炎の気配もいよいよ近づいてきた頃、生活スペースで物音がしたと思うとミシェルが螺旋階段を使わずに僕をめがけて飛び降りてきた。
「兄さん!! 何をしているの!?」僕に受け止められるや否やそう叫ぶ。その瞳からは大粒の涙が溢れぼとぼとと流れ落ちる。
「それは僕の台詞だ! 母さんに逃げろって言われたんだろう!?」
「そんなこと、できるはずないじゃない……」ミシェルは嗚咽する。
「上に行ったんだな? 母さんはどうした?」
「死んだのよ!! 赤い軍服の兵に殺されたの!! 兄さんが呑気にオベンキョウしてる間に!」ミシェルは目を見開き悲鳴のような声で言った。さっきまで悲しみ一色に翳っていた瞳は怒りで爛々と燃えていた。
死んだ……? 母さんが、殺された……? 思考が追いつかない現実ばかりが突きつけられる。目の前で泣き崩れるミシェルの姿すらも夢の中の光景に思える中、突然母さんの声が頭に響いた。
(シャルル、シャルル! 気をしっかり持って。ミシェルを連れて逃げるの!!)
意識が朦朧としたのは数秒か数分か定かではないが、脳に響く母さんの声にハッと我に返る。そうだ、ここから逃げないと。……でも、どこへ?疑問が脳内で言語化するよりも早く、母さんの声が僕を導く。
(北西の塔よ。そこに母さんのお父さん……あなたたちのお祖父さんがいるわ)
「北西の塔……そこに逃げるんだ! ミシェル!」
「え……?」ミシェルは力なく僕を見返す。いつもの溌剌さばかりか、先刻まで憎悪と怒気で燃えていた瞳もすっかり影ってしまっていた。もはや放心状態にある彼女の手を引き、書庫の端の緊急脱出口から地上を目指した。
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