男②⑥

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男②⑥

平成最後の年。 地震が襲い、大雨が襲い、 そして、台風が来た。 女の住む一階のシングルマンションは、地震で少し緩んでいた所へ、大雨が襲い、壁にはカビが、大発生。 そして、その後の台風というものは、窓ガラスと、ベランダの柵を盗んでいった。 女は、不動産屋の男へ、直ぐに電話を掛けた。 繋がらない。 きっと、電話がパンクしているのだろう。 次の日も次の日も、電話を掛けた。 留守電にもならない。 1週間後…やっと繋がった。 それから数日後、やっと見に来た不動産屋の男。 チラリと、カビだらけの壁とベランダを見て、 「他の所の方が、もっと大変ですよ。」 と、ぬかした。 な、ん、だ、と! 相手が、おとなしそうな女だと分かると、ナメてかかり、強そうな者にだけは、ヘコヘコするであろうタイプの、不動産屋の男を眺める。 不動産屋の男は言った。 「どこも大変ですのでねぇ、いつ工事に来れるかは分かりませんからねぇ。」 と、だけ告げ消えた。 その後、偶然に不動産屋を知る男に出会う。 不動産屋を知る男は、災害後に出会った不動産屋の男へ、大変だったでしょう? と、労いの言葉を掛けたそうだ。 不動産屋の男は、笑いながら言ったそうだ。 大変だと分かっていたから、電話線抜いて、スマホも電源入れてませんでしたよと…。 災害後の女は、割れた窓へ、ビニールと段ボールを張って過ごした1週間と数日。 歳は取っても、女の独居。 どれ程の恐怖で、毎日過ごしていたかなど、 世間知らずのボンボン息子の不動産屋の男になど、分かるはずあるまい。 あっ、そうそう。 それからね、宅建の資格を持ってないって情報も、入ってきたよ。 宅建の国家試験って、プロ野球のシーズンなんだってね。 そんな大切な時に、受けられるわけがないと、駄々こねているそうだね。 でもね、そんな仕事出来ない、モテない君の男でも、不動産屋のボンボンだから、結婚できたそうだね。 お金ってスゴい力だよね、エセ不動産屋さん。 う~ん、なんか呪いの言葉を考えなきゃだわ。 女は微笑んだ。
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