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男52
職場前の朝の掃除。
世の中のウイルス騒動で、アチラコチラで、喫煙は良くないと伝えられているにもかかわらず、歩道のタバコの吸い殻は、一向に減らない。
掃除をしている側から、排水溝をゴミ箱だと勘違いしているスーツ姿の男が、火の付いたままのタバコを投げ捨てる。
しかし、風の流れと共に、女の元へと飛んできた。
もちろん男は、気付くわけも無く去っていく。
女性専用のネイルサロンで働く女。
見た事のない男が、ドアを開けた。
「爪が弱いので、補強の為に、透明のネイルをお願いします。ゴホッ。ゴホッ。」
男は、マスクもせずに、手で覆いもせずに、咳をしながら入ってきた。
ご来店中のお客様達は、一斉に顔をしかめた。
「申し訳ありません。女性専用のネイルサロンとなっております。」
ネイリストの女が伝えると、出ていった男。
女は、お客様へ、
「今から換気をしますので、少し寒くなりますが、申し訳ありません。」
と伝え、全ての窓を開け換気をし、残り少ない大切な消毒液を使い、男が触った部分を拭いた。
全て個室の女性専用のエステサロンで働く女。
こんな時に、自動扉が開き、見た事のない男が、店にやって来た。
「いつも行く散髪屋に断れたから、ここで髭剃ってくれる?ゴホッ。ゴホッ。」
男は、マスクもせずに、手で覆いもせずに、咳をしながら入ってきた。
店内のお客様達にも、珍しい男の声が届いて、きっと一斉に、顔をしかめている事だろう。
「申し訳ございません。こちらは女性専用となっております。」
受付の女が伝えると、出ていった男。
受付の女は、直ぐ様お客様の所へ向かい、
「今から換気を行いますので、少々寒くなりますが、申し訳ございません。」
そして、部屋の温度を上げてから、窓という窓を開けて換気をし、霧吹きに入った残り少ない大切な消毒液を、撒き散らした。
女性専用のマンツーマンマッサージサロンを営む女。
次のお客様がお越しの時間に、見た事のない男が、店にやって来た。
「この二時間のCコース。ゴホッ。ゴホッ。」
男は、マスクもせずに、手で覆いもせずに、咳をしながら入ってきた。
その後ろから、ご予約の時間通りにご来店したお客様は、男の顔をチラ見して、顔をしかめた。
先に、ご予約のお客様を店内に、お通しし、
男に向かって、
「申し訳ありません。女性専用となっております。」
女が伝えると、出ていった男。
女は、お客様の両手へアルコールを吹き掛けて差し上げ、
「直ぐに、換気をしますので、寒くなります。少々お待ちくださいませ。」
女は慌てて、店中の窓を開けて換気をし、残り少ない大切な消毒液で、男が触った部分を拭いた。
ウイルス騒ぎで、客足は遠退いている職業だ。
ウイルスが怖くて、風俗とガールズバーが行けなくなった男ども。
どうしても女に触って欲しい欲求を押さえられない男どもは、
女性専用という文字に気付いていながらも、もしかしたら、男でも受け入れてくれるかも知れないと、甘く考えているのかも知れない。
いらぬ仕事だけを増やす男ども。
そんな男どもは、断られた腹いせに、ゲホゲホと咳を撒き散らし、カッー、ペッ!と、道端に痰を吐く。
万が一、緊急事態宣言発令が出れば、人々の不安は計り知れない。
先ず女達は、節約を始めるだろう。
店で指先を彩る事をやめ、自分の手で指を彩り、店で美しくなる為に掛けていたお金は、安物の化粧水に変わり、ケチケチ使いながら、顔に塗る。
人の手で揉みほぐして貰っていた時間は、引き出しの奥にしまっておいた、低周波治療器を探し見付けて、体のアチコチに貼るようになるだろう。
そうして、人に触れるお店は、消えていく。
そして、緊急事態宣言が発令。
保健所から、営業停止を告げられた散髪屋の彼氏から、ラインが来た。
(すまない。金を貸して欲しい。)
大変だね…、
なんて、思ってあげないよ。
これで、何度目だろう。
ウイルスの病気は、違う病気も起こすみたいだ。
先ずは、世界が平和になりますように…。
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