男54

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男54

ある日のSNS。 (某有名美容室行って来たけど、この頭、どう思う?) との、言葉を入れ、証明写真のような自撮り写真を載せていた金髪ツーブロック男。 コメントもたくさん入っていた。 (右側おかしく見える。)(左右の量一緒に見えない。)(色おかしいー。)(もう少し短い方がいいんちゃう。) そして、(髪型よりも、あなたの顔と頭の中身おかしい。)との、全うなコメントに、【いいね】を押したい衝動にかられた女は、なんとか留まり、そして笑った。 金髪ツーブロック男はというと、多数決の多の方だけのコメントに対し、返事を返していた。 (やっぱり、髪型おかしいよなぁ。店に文句言うてくる。) そのやり取りを読んで、なるほどなぁ~と思った。 きっと、金髪ツーブロック男は、美容室へ行って告げる事だろう。 「たくさんの友達から、おかしいって言われたので、やり直してください。」と…。 ってな感じで、そんな男が来店してると思うと、美容室は大変そうだ。 セットが出来ない不器用さを、カットのせいにする男。 スマホを見せてきて、このモデルと、髪型が全然違うと言い出す男。 違うのは、もちろん男の顔だろうと想像する。 そして、デリカシーの無い男。常識の無い男。アホな男も、来店するだろう。 そして、頭の良い社長さん。頭の良い研究者。頭の良いお坊ちゃんも来るだろう。 でも、プライド高過ぎて、理詰めでやっつけてくるメンドイ男や、仕事のストレスを、関係のない美容師にぶつけてくる男も、もしかしたら、いるだろう。 美容師とは、男だけでなく、もっとややこしい大変な女まで扱う、究極の接客業だと思う。 美容師さんのスゴい所って、その仕事が大好きだと誇りに思っている方が、生き残っているのだと感じる。だからこそ、店が存続するのだろうと思う。 ここは女性スタッフばかりの美容室。 ネットで予約した男が、初来店。 「なぁなぁ、美容室って、若い女ばかりが働く、夜の酒出す接客業扱いされてるって知ってる?夜の酒出す接客業は高いけど、美容室は、安く済む接客業やと言われてるでぇ~。」 そう言って笑った後、 「それだけ胸大きかったら、俺の頭にぶつかって、首ごと飛びそうやな。頭飛んだら、賠償金請求するでぇ~。まぁ、俺はそんなん言わないから、カラーの待ち時間のサービスドリンクは、ビールね!」 と、一人でベラベラ喋りだし、大笑いした。 どこにも全く、面白い所など無い、ただのセクハラ発言だったが、口角だけは上げた女。 客でなければ、訴えたい。 ここは女性スタッフばかりの美容室。 ネットで予約した男が、初来店。 「今回の風邪中々治らんし、一週間も寝込んでて、頭を洗う力残って無かったから、ついでにカットでもしようかなと思って来てん。俺、一人暮らしやし、ホンマに死ぬかと思ったわ。」と、話し出した。 一週間も寝込んでいたから、話をしたくて、仕方がなかったのだろう。 死にかけていたはずなのに、カット中は、機関銃のように止まる事が無かった男の口。 その二日後、担当者の女は、高熱を出した。 インフルエンザと診断された。 そして、一週間仕事を休まざるを得なくなった。 客でなければ、訴えたい。 ここは女性スタッフばかりの美容室。 ネットで予約した男が、初来店。 「この前、ごはん屋入ったら、マスクしてた男が、帰ろうとして席立った時に、付けてたはずのマスクを、わざわざずらして、ゲホッゲホッて、しおってん。信じら…。」 と、話の途中に、ゲホッゲホッと咳をした男。 そして、続けて、 「俺、今、風邪気味やねん!コロナやったら怖いよなぁ~。」と言って、手で鼻をすすった。 その手で、店の椅子の手摺りに手を置く。 カットをしていた女は、鏡の前で、精一杯の作り笑いをした。 鏡だらけの職場では、嫌な顔など出来ない。 まして、【お客様は神様です】と、昔、テレビで見た着物姿の男は、電波に乗せて言うていた。 でも、本当に笑えない話…。 志し強い美容師という働き者は、御飯を食べるのも、ままならない。朝や夜に技術の向上の為に、睡眠時間を削って、レッスンをする。接客業のストレスは半端無い。 免疫力、抵抗力、付けたくても、過酷な現場。 そして、まさかの美容室でのクラスター発生。 誰が、ウイルスを撒いたかは、分からない。 美容師側かも知れない。 お客様側かも知れない。 取り引き先の業者かも知れない。 お店という場所には、沢山の人が集まる。 美容室は、保険所が立ち入り検査をして、広さに応じた、換気場所を必ず調べているはずだ。 ちゃんと換気されていなければ、 パーマやカラーの薬品の臭いがこもり、それだけで、倒れるかも知れない場所だ。 換気は、大丈夫だとしても、 髪の毛が濡れて、寒いであろう冬は、お客様の為に、室内はガンガンの暖房が入っているはずだ。 それに、ドライヤーの熱まで加わり、乾燥砂漠化状態。 乾燥砂漠化状態の美容室へ、ウイルスという魔物が入り込んでしまうと、魔物は喜んで、人々の所へ旅立って行く事だろう。 コンビニよりも多い美容室。 国は補償出来ないから営業させるのだろうか…。 三密。 都会の美容室には、色んな人間が集まる。 お偉いさん方は、美容室がどんな所か知らないのだろうか。 どうかどうか、未来の美容師さんが、減りませんように…。 この世界での見えない恐怖との戦いは、まだまだ続きそうだ。 世界が平和でありますように…。 女は、膝上に猫を乗せて、猫の手を合わせて、深く祈った。
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