新入部員の彼

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 部室のドアの前に茶色い何かが落ちていた。パスケースのようだ。  土の付いた軍手を脱いでそれを拾い上げて、名前を確かめた。 「ヤナギサクヤ……柳、朔也?」  つい声が出た。  柳朔也は同じクラスの男子だ。だけど、私は彼とまだ一度も話したことはない。新年度が始まってまだひと月あまり。言葉を交わしたことがない人もまだ多く、その中には名前すら憶えてない人もいるのだけど、柳くんはちゃんと顔も名前も憶えていた。  彼はちょっと目立つからだ。  愛想のない硬派なイメージのせいか、表立って騒がれはしないけど、彼のことを「かっこいい」と噂している女子は多い。本人はそういったことにはまるで無頓着な素振りで、徹底的なまでに無愛想なのがまた「ミステリアス」で「良い」のらしかった。  その彼の定期券が、何故ここに落ちているのだろう。この『園芸部』の部室の前に。この部室は校内の外れの方にあって、何かのついでに通るような場所ではない。  不思議に思いながら部室のドアを開けた。誰もいないと思ったのに、三年生の部長と副部長がいてちょっとだけ驚いた。二人とも制服のままで椅子に座って、のんびり茶など飲んでいる。活動するために来ているわけではないようだ。
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