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私は神様が気紛れに伸ばした腕がかろうじて届く椅子に腰掛けながら、先日の異星人の襲来で荒れた世界をぼんやりと室内から見遣る。野兎は貪られ、肉片が飛び散り、未だ滴る血潮は枯草に垂れては、草叢の奥の暗がりに粛々と消えていく。野兎だけではない、勇猛果敢な野鹿も、私たちでさえほんの時折しか見られないしなやかな四肢を優美に撓らせる瑞獣も、愛らしい胡蝶も、全て異星人の撒き散らかした酸によって溶かされたか、もしくはあの野蛮に剥き出しにされた犬歯に喰い千切られ、土へ帰した。異星人の襲来の度に、この世界は死骸で溢れかえる。まだ土に溶けきっていない死骸は見るも無残なものだ。
死骸に集り、腐敗の速度を上げるのは、蠅や蛆、蟻の類ではない。紋白蝶だ。彼らは普段は私たちの視界に入ることは滅多にない。死者を弔うときにのみ、現れて、弔辞を読むように死骸に触れる。
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