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丘陵からの帰り道、神様は沈黙を守り続けた。私はなにも言わない代わりに、名もない歌を口遊んだ。鎮魂歌というには少し華々しかった。呼応するように、どこからともなく野良犬の遠吠えが木霊した。さらにそれに続き、私たちの向こうに在る森が一度激しく瞬いた。残照? おそらく流星が落ちたのだろう。森の一部は火事を起こしているかもしれないが、この凍てつく夜の冷気に直に全てが氷の裡側に幽閉されるだろう。私はその一瞬を想像した。暴れ馬のような獰猛さを含んだ火の粉が血気盛んに飛び散り、闇夜を切り裂くように炎を噴いてはこの世界を蝕もうと足掻き、しかしその努めも虚しく鎮静され、鋭利で無情な氷に閉ざされる口惜しさと、切なさを思う。 やがて私も黙り込み、月から垂れる幾条かの光の帯を頼りに、足下不明瞭に坂を下り、橋を渡り、小舟に乗り、そして降り、草叢を突っ切って、朗らかな灯がともされた暖かな家へ帰った。扉を閉める間際、空に亀裂が走っているのを見つけた。その奥には新しい銀河が誕生しつつあるのだ。そこへ行けば、きっと新たな隣人が待っていてくれて、私が神様に対して持つ蟠りも、憤りも愛も、全て溶けてくれるだろう。けれど尚、私たちは私たちの意志でここにいよう。隣人には会いにいかないだろう。神様と私のあおい部屋。誰が破壊しに来ても、花畑が燃えても、かわらない、あおい世界。
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