見えない明星

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天に突き立つ、植物に絡まれた古代文明の建造物がひしめく景色を見て、僕は地上へたどり着いたと実感する。 高層建造物によって追いやられた狭い夜空を見上げた。 空はもう蒼く光を帯びていた。夜空と言うより、夜明け前と言ったところだ。 耳を澄ませると、右の方、壁のように並ぶ建物の向こうから、どこか下衆な感じのする幾人もの品のない男の声と、逼迫して余裕のない若い女性の声が何やら言い合う様な感じで聞こえてきた。 それにしても、時間帯的にも、さっきの足音の数からしても。何かの問題が起こっていて、それに首を突っ込む様な予感がする……。何となく、覚悟はしていた。 不幸な事に。本当に不幸な事に。僕はこの手の問題に巻き込まれることに関してはピカイチの才能を持っている。 気は進まないが、放っておくのも気の毒な気がした。 遺跡群探索のついでに助けるのだと思えば……。いや、それでも気は進まない。 「……今は余裕はないけど、見捨てるわけにもいかないか」
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