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豪雨の中、母は左手に、赤毛の二つのお下げを揺らしながら走る妹を、右手に僕を引いていた。
その手に引かれながら人混みの中を走る。
誰も傘をさしてはいなかった。そんな場合ではなかった。
父が先に行って、僕達の順番を取っているはずだ。
黒い鉄板が波を打ち返して、港に流れ着いた。救助船として配備された戦艦ギース。
そして先行して救助活動を行っていた戦艦エル。
それらの搭乗口を目指して人々は殺到する。
人々の足音、どよめきに混じって遠くから聞こえる戦の音。
でも剣が交差する音でも、勇ましい騎士の咆哮でもない。
爆発する音と何かが破裂するような音が響く。これは砲声や銃声だ。
戦……いよいよ始まった。
しかも、ただの戦じゃない。幻霊師が幻霊を使って戦っている。
人混みが壁になり、母が立ち止まる。それに合わせて僕も妹も立ち止まった。
「急げ!撃ち殺されるぞ!」
誰かが叫ぶ。
音の感じからして、幻霊が遠からぬところで戦っているのはよくわかった。
そんな喧騒の中で何か違う、一際大きな音が頭上、真上を通り過ぎた。
なんだろうと思って走りながら見上げた。
「流星……?」
僕にはそうとしか見えなかった。
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