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 幼稚園の頃、迷子になったことがある。  三時間ばかり行方不明だったとかで、警察にも捜索を頼んでいたらしいが、やけにあっさり見つかって、母はひどく安堵したのだと、そう笑っていた。  それから約十年。  私はまた、迷子になっている。    きっかけはとても単純。  昔迷子になった辺りってどこかしら、と興味本位で向かってみたのだ。  単純な好奇心。  それでまた迷子になるだなんて、笑っていいのかいけないのか。どっちにしろ、家族には笑われるだろうなあ、なんて思ってしまう。  とりあえず迷子になったことは、ないしょにせねば。  そう思いながらふらふら歩いていると、小さな祠を見つけた。土地神様を祀っているかのような、そんな小さな祠。  私はたまたまそう言う小説とかもすきだから、簡単な知識はある。でも、こんなところにそんなものがあるなんて、初耳だ。  何となくしたほうがいい気がして、手を合わせる。  と、不意に後ろから声がした。  人の気配なんて無かったのに……振りかえると、嬉しそうに笑っている男の人がいて。着流し姿に長髪、時代錯誤な雰囲気の人だ。 『帰ってきたんだねぇ、とりかえ子』  とりかえ子。  その響きは妙に頭が痛くなる。なんだか目の前がくらくらする。  その男の人の後ろには、私にそっくりな女の子。  どういうこと、とりかえ子って何、私の頭はパンク寸前。  ただその少女が私にそっと唇を重ねてきたので、完全に頭がフリーズしてしまった。  だけど、次の瞬間、パンと弾けるように色々なことを思いだした。  私はこの山の精霊で、この子の身体と記憶をコピーして街に降りていたこととかを。  でもとりかえっこももう終り。  私はこの山に戻ってきたのだから。十年間の記憶を彼女に渡して、そして私は元の姿に戻る。  山の神様はこんなちょっとした悪戯が好きなのだ。……私も好きだ。    どうか、貴方はヒトの世界で仕合わせになりますように。
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