形見と戦利品

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形見と戦利品

 文明の再建に心血を注ぐ人達が住む街に、昇り始めた太陽の光が当たり始めた。普段なら新しい一日が始まるこの瞬間を全ての人が喜ぶが、脅威となるイナゴ軍に目をつけられた今は不安が漂い始めている。  レンガの壁の裏にある通路には猟銃や弓矢、古い刀剣を持つ見張りが油断無く目を配っている。夜通しの仕事をする彼らに、宿を営むエリの子供が干し芋を混ぜた温かい蒸しパンとお茶の入った大瓶の水筒をお盆に載せて運んできた。自警団は差し入れに感謝し、腰を降ろすと食べ物や湯のみを手にした。  ブロロロロロロォ・・・・・。  重みのある車のエンジン音に見張りは凍りついた。立ち上がって桜の並木の見える丘の向こうに目をやると、クレーンを搭載したトラックが見えた。 「敵が来たぞ!」  上下二連の散弾銃を持つ見張りが震える声で叫んだ。刀を持つ街の人が通路の階段を降りると半鐘を鳴らす為に火の見櫓に走り、飛び道具を持つ街の人は震える手でトラックに狙いを定めた。 「お母さんだ!」  双眼鏡を覗きこんだ子共はトラックを運転しているのが自分の母親だと気付いた。それを裏付けるようにクラクションが数回鳴り、ヘッドライトも瞬いた。荷台にはユウとヒミカを始めとする病院村の人達。その後ろからは茶黒い馬に跨るタキトと白馬に跨るアイナが手を振っている。イナゴ軍に囚われた病院村の人達を救出し、無事に戻ってきた。  見張りの人は火の見櫓に昇った人に腕をバツの字に交差させた。メッセージを受け取った火の見櫓の人は間隔を置いて半鐘を小さく叩いた。  鉄扉を開けて馬とトラックを通すと、広場では家や店から出てきた街の人達が生還を喜んだ。ユウとヒミカも両親と無事に再会できて抱き合っている。しばらくしてから、タキトとアイナは街の人達に大きな声で呼びかけた。 「皆さん。昨日は上手くイナゴ軍に奇襲をかけて戦力を減らしましたが、まだまだ武器も車も腐るほど持っています」 「数日後は本腰を入れて襲ってくるでしょう。ですから、決めてください。命を棄てずに全員で逃げるか、危険を承知で街に踏みとどまるか」  重大な選択に街の人達と病院村の人達に沈黙が流れた。タキトとアイナはその返事を待っている。二人はどちらの答えにも味方してくれるだろう。沈黙を破るように、一人の男性が手を上げた。 「もし、戦う事になったら君達も死ぬかもしれないよ・・・」
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