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道は広くなり、街道沿いに建物も多くなってきた。かつては賑やかだったレストランやスポーツ施設、大型書店が並んでいるが、目を凝らす必要も無い程に窓が割れていたり、古い放火の爪痕もある。馬が歩くアスファルトの道もひび割れた箇所からは草が覗き、街灯も所々傾いている。道路の反対側の公園には大きな池が静かな光を反射している。
少年は一つの建物に目が留まった。大きなウィンドウの向こうに車が見える。自動車販売店だ。珍しく、荒らされてもなければ窓も割れていない。今日の『家』を見つけた少年は馬をそちらに向かわせた。この店舗は車の整備も兼ねていたらしく、展示コーナーの隣には大きなシャッターのガレージがある。
少年はガラス扉の前で馬を降りると腰の拳銃を抜いた。その拳銃は回転式だが、アメリカ製でもヨーロッパ製でもなかった。
明治時代に造られた<二十六年式拳銃>。長い時代を経た金属の光を放ち、四角い撃鉄は良い意味でガンブルー塗装がくすんでいる。
不動の自動扉を押して入ると、若干薄暗い店内に軽く目を走らせる。デスクに残されたパソコンには埃が厚く積もり、展示されている車も全てタイヤが潰れている。長く人の出入りが無いことは明らかだが、万一の為に銃を構えたまま進む。
廃車と化した展示車の中、カウンターの裏、給湯室やトイレをくまなく調べたが誰もいない。
『カラン・・・・・』
金属がぶつかる音が奥から聞こえてきた。また『チャリン』という音が。奥にあるのはまだ調べてないガレージだ。廊下を進んでガレージに入る扉の前に立つと銃を突き出すようにして、ノブを回して扉を勢いよく開いた。
誰もいない。壁や床に放置されたままの工具や空気注入機と共にオイルの臭いが残る部屋にはシャッターの小窓から午後の日が差し込んでいる。
音の正体はすぐにわかった。上がったままの車の点検台からネジや歯車やボルトが紐で吊るされて、細く開けられた窓から吹き込む風に揺れて音を立てていた。
ボーイは手作りの風鈴に微笑みながら銃をホルスターにしまった。
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