少年少女ガンマン

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 開けられたままの遊園地の門には紫色の藤の花がカーテンのように垂れ下がっている。ただ、馬に乗ったままでは屋根に頭をぶつけそうなので降りるしかない。  柔軟体操をして足腰をほぐした赤服のカウボーイは、軽くマントをめくると右腰の木の板に手を掛けた。この動作でマントの下がワインレッド色のライダースーツだとわかった。程よい光沢を放つレザー生地の衣に包まれた身体は不思議と細く感じる。  革手袋をした細長い指で木の板の上面を開くと、細い握りの拳銃が現れた。木の板は銃のケースだった。銃を抜くと、細い握りとは対照的に本体が大きさを増して見せた。引き金の前には弾倉が備えられている。  ドイツのモーゼルM712。先駆型となるC96の固定弾倉を着脱式に改良し、スイッチ一つで機関銃にも変わる旧くも画期的な銃だ。ちなみに、これは同型でも珍しい9ミリ口径タイプだ。  赤服のカウボーイは大型拳銃の撃鉄を起こすと、馬の綱を引いて中に入った。  噴水は枯れて落ち葉が溜まっている。ジェットコースターの線路は所々脱落。先ほど見た観覧車は風雨で色が流されて見るに絶えない姿に。ゴーカートは倒れた照明の下敷き。バッテリーで動く蒸気機関車の乗り物も外装が崩れて中の配線が見えている。  軽い探索を終えたガンマンはレストランやお土産の店、小さな劇場がある園内のメインストリートに足を向けた。  レストランはテーブルや椅子がそのままだが冷蔵庫は扉が開いたまま汚れている。厨房に入ったカウボーイは品定めを始めた。調理器具や皿が大小多数ある。  と、調理台の下に何か落ちている。取ろうにも、帽子が台に当たる。仕方なく帽子を脱ぐと、後ろから赤い紐でポニーテールにした髪が流れるように落ちた。  拾ってみると、石けんだった。包み紙は未開封で、中からは柔らかな花の香が漂ってくる。長髪のカウボーイは調理器具の棚からやかんや鍋を集めると外に出た。
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