病院村

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「くそっ! あいつら!」  モール店内の十字路で、将軍はハンカチで眼鏡の汚れを入念にを拭いながら怒りに満ちた罵声を吐いた。彼を囲むように兵士達が整列している。下から上階まで見渡せる吹き抜けの天井からはシャンデリアを模した照明が発電機の電力を得て光っているが、暗い通路と妙な境界を生み出している。 「申し訳ございません。追跡をしたのですが・・・」  磨き終えた眼鏡を掛けた将軍は負傷したバイク隊の一人から報告を聞く。 「我が軍の損害は?」  シャープペンとノートを手にした別の兵士が「はっ!」と前に出た。 「トラックは二台。うち一台が強奪され、もう一台は大破。バイクは・・・」 「仲間の戦死と負傷の数を言え」 「戦死が二十六人。重軽傷が十七人です」  将軍は唇を少し歪ませて頷いた。兵士達が落ち着いているのはこの将軍を信頼しているからだ。映画で観るような失態を犯した部下の処刑はしない。そんな事をすれば戦力は弱体化するし、反乱も起きる。これは学生同士だったという強い繋がりがある。日頃から顔をあわせ、苦労を共にした元学級委員長の将軍と元学友の兵士達で構成された強さがある。 「車両の全てに給油は終わっているのか?」 「はい。しかし、タンクローリーが燃やされたので・・・」 「充分だ。次の戦闘の分があればいい。負傷した仲間は戦闘に復帰できるか?」 「全員、戦意は失ってません。明日にでも街への攻撃をしますか?」 「いや、街の攻撃は予定通り三日後だ」  その言葉にようやく兵士達は動揺した。 「街への攻撃は後方部隊が到着してからだ。その間は、負傷した仲間は出来る限り手当てしろ。念の為、次の奇襲に備えて警戒を怠るな」  将軍は一度台詞を区切ると息を吸い込み、仲間達に言う。 「諸君、この次に戦う相手は今までの連中とは違う。だが、我々の強さと有能を証明する絶好のチャンスだ。何としてでもあの街を攻め落として手に入れるぞ。我々は決して弱者ではない! 手前勝手に人生を操り、将来を踏みにじった大人に反乱を起こした力を持っている。我々こそ、この新しい日本に相応しい存在だ! 我々が指導者となる国を作るぞ!」 「「「オオオオオォォォッッーーーーー!!!!」」」  兵士達は銃を高く掲げ、声を重ねた声はモール内に大きく反響した。
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