少年少女ガンマン

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 夕方、自動車販売店を今夜の家に決めた水色ジャケットのカウボーイはほぼ隣に建つ大型店舗の古本屋にいた。店内の床には本棚から抜いた小説や漫画、雑誌が散らばって足の踏み場もない。過去の暴徒が面白半分でやった痕だ。  おもしろい作品の立ち読みを終えたカウボーイは、一枚のシングルCDを持って、自動車店に戻った。愛馬は車庫の中で就寝中だ。  外の車止めのブロックの前にはホワイトガソリン式のコンロが置かれ、火はレトルトパックを入れた鍋代わりの飯盒の湯を温めている。  ブロックに腰掛けると飯盒を下ろして、やかんを置く。この建物は水道が奇跡的に生きていた。最初は赤錆びた水が出ていたが長く流していると透明になった。旅で水が使えるのは嬉しい。  隣にはタオルで包んだ飯盒の外蓋と内蓋が重ねて置かれている。包装を解いて、内蓋を持ちあげると、お湯で戻した干飯が湯気を立てている。パックも充分に温まると引き揚げて短刀で開いた。  中身はカレー。食欲をそそるスパイスで煮込まれた牛肉とジャガイモとタマネギとにんじんの入った茶色いルウをご飯にかけると、スプーンで一口一口ゆっくり噛み締めて食べる。一昔前なら粗末な即席の食事だが、香辛料を含める海外からの輸入が途絶えた今の時代では貴重な味だ。  食事が終わって暗くなれば、あとは後部座席をベッドにした店内のワゴン車で寝るだけ。でも、日が沈むまでにはまだ時間はある。金属カップに茶こしを使って淹れた緑茶を用意すると、太陽光の充電器から単三電池を抜き、CDウォークマンに挿れた。このCDは状態が良かったので、久々に新しい音楽が聴ける。表紙が色あせているのでタイトルがわからないが、<金曜ロード・・・>と何とか読める。  小さなパネルが電光表示されたスイッチを入れると、イヤホンからジャズ調のトランペットの音が流れてきた。初めて聞く曲なのに、黄金色の光を反射する池を眺めながら聴いていると、なんだか懐かしい気持ちになる。  少年は一番星が輝くまで、何度も何度も音楽を再生して聴いた。
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