少年少女ガンマン

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 ほぼ同時刻の夕日に染まる遊園地。白い愛馬はメリーゴーランドの横でくつろいでいる。噴水の近くではカセットガスのボンベを使う屋外ストーブに青い炎が灯っている。月面着陸したアポロみたいなガス台の上にはヤカン。注ぎ口からは川の水を温めた湯気が立ち昇っている。  そのヤカンを赤服のカウボーイが手にした。それと入れ替えるように、今度は水を張った鍋にラベルの剥れたスープの缶詰を入れた。  缶詰が温まる間、やかんのお湯をじょうろに注ぐ。噴水の縁には同じようにお湯の入ったじょうろが三つ置かれている。傍らには石鹸とタオルと銃。  準備が整うと、落ち葉やゴミを取り除いた噴水の内側に入り、髪を留めていた紐を解いた。背中に届く長さの髪がふわりと垂れた。ライダースーツを脱ぐと、双つの整った膨らみ、くびれた腰、滑らかな下半身が露になる。  カウボーイではない。『カウガール』だった。最後の二枚となる上下のスポーツタイプの下着を脱げば、大人びた女性の身体が黄金色の光に照らされたが、どう高く見ても二十歳になっていないだろう。  ウキウキとした表情のカウガールは噴水の上段にじょうろを斜めに置いた。置くと同時にじょうろの散水口からお湯がゆっくり流れ出た。即席のシャワーだ。  頭からつま先まで入念に手を滑らせて身体を洗う。全身を浴びた頃に、じょうろのお湯は無くなった。カウガールは空のじょうろを下ろすと全身を石鹸の泡で包んだ。  次のじょうろで泡を洗い流し、三つ目のお湯を使い切る頃には全身が艶やかに光っていた。服は同じのを着るしかないが、身体を久々に綺麗にすることができて満足だ。  手袋をした手で鍋の中の缶詰を出し、多機能ナイフの缶切りでかぼちゃポタージュのスープ缶を開けるとレストランで見つけたスープ皿に注ぎ、小皿にはクッキーみたいなパンを添えた。  噴水の縁に腰掛け、スプーンで静かにすする。甘さと塩味を感じる温かいスープが身に染みる。  夕飯を終えると、少女はバッグから乳白色のオカリナを出した。息を吹き込みながら指をリズミカルに動かす。明日の自分へ親しみを込めた演奏で、故郷で長年継がれている曲が流れる。自分の親が子供だった時代に公開された映画に挿入されていた曲で、三丁目の・・・なんとかという昭和の東京を舞台にした映画だった。  オカリナのメロディーは風に乗り、夕方の無人の遊園地に息吹を与えるように包んだ。
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