第一章 追われる少女とイカれた男

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 なんとか男に見つからず、駅舎に入り込むことができた。  現在停まっている汽車は、出発時刻が迫っているようだった。  本当は手続きを済ませ、高額の乗車券を買わなければならないのだ。  しかし今はそんな余裕もない。代金は後でなんとかすればいい。  リーリエは車掌の目をかいくぐり、乗車口へ向かうと、そのまま汽車に飛び乗った。  出入り口のすぐ傍で、壁に寄り掛かり、ようやく一つ息をつく。 ――――この汽車、どこへ行くのかしら。  行き先なんて分からない。それはもう、後で知れば良いことだった。  とにかく、この地を離れれば、ひとまずは安全だ。 「君、乗車券は?」  不意に声を掛けられ、リーリエはハッとして身を起こした。  客室の巡回をしていたのか、通りがかった車掌が声を掛けてくる。 「乗車券を出して」  その目はリーリエを眺め、訝しげに歪められた。  無理もない。今のリーリエは髪も乱れ放題だ。逃げる際に服はところどころ破れ、ひどく汚れていた。 「あ、あの」 「持ってないのかい? 無断で乗車するなんて……」  さらに目を細める車掌に、リーリエは慌てて返した。 「ま、待ってください。買うわ。買います」  幸い、買い物の際に肩からかけていた鞄はそのままだったのだ。  急いで財布を取り出すものの、中の金額を見て、胸に鉛を詰め込まれたような感覚になる。  とてもじゃないが足りない。  車掌はそれを見ると、呆れたように息をついた。 「どう見ても足りないだろ。一度降りて、金をかき集めてくるんだな」  その口調はだんだんと容赦がなくなってくる。 「また別の汽車に乗ればいい。ほら、さっさと降りてくれ」  その時リーリエは、視界の端に追手の男を見つけた。彼は駅舎を行き交う人に紛れ、きょろきょろと何かを探している。  リーリエは泣きそうになって車掌を見上げた。 「お願いです。この汽車じゃなきゃ駄目なんです」  相手はひどく眉を曲げた。 「そういう奴をいちいち乗せてたらどうなると思う? 商売あがったりだ」  不意に、汽笛が鳴った。  腹の底に響くような、長い音が鼓膜を震わせる。 「出発の時間だ」  車掌は顔を上げると、再びリーリエに向き直った。その手がこちらの肩を掴む。 「いい加減にしろ。さあ降りるんだ」
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