プロローグ 処刑場の奇術師

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 人々の騒ぐ声が、青い空に響き渡る。  彼らは押し合い、もみくちゃになりながら、その人が来るのを今か今かと待っていた。  その視線には、まだ見ぬ男への侮蔑と、これから始まる見せ物への期待が混じっている。  処刑場に、ようやく一人の男が現れる。  後ろ手を縄に縛られ、兵士に引っ張られるようにしてやって来た死刑囚。  灰白色の髪は肩まで流れ、瞳は怪しい緑色だ。  彼を見るなり、つんざくような喧騒が沸き起こる。  呪いと嘲りに満ちた罵声。  それを受けた男は物おじもせず、静かに顔をあげて人々を見た。  底光りする瞳に、何人かが息を呑む。  男はそれに目もくれず、少し疲れたように処刑人に向き直った。 「やるなら、さっさとしてくれ」  罵声を聞き流して彼が言うと、処刑人はわずかに眉をあげた。  恐れを知らない死刑囚に、喧騒はますますひどくなる。 「早く殺せ!」 「この反逆者!」  耳をふさぎたくなるような罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)。それを浴びながら男は身じろぎ一つしない。  人々の群れは、今や一体となっていた。  この男は女王を欺いたのだ。  一刻も早く、この裏切り者を殺さねば。  処刑人は斧を持ったまま、死刑囚を、ついで隣の台を見やる。 「そこに寝ろ」  石でできた処刑台は、無機質なまま冷たく光っている。  男は無言で言われた通りにした。  おもむろに台に近づき、うつぶせになると、頭だけを出すように横になる。  処刑人がその気になれば、その頭はいともたやすく、切って落とされるだろう。 ――――ああ、ごめんね。  男は遠い少女の顔を思い浮かべた。  あの少女は今頃、何も知らずに過ごしているはずだ。  彼女がこのことを知ったら、男をひどく罵り、怒鳴り散らすに違いない。  けれどその時、自分はもうその声を聞けないのだ。 「時間だ」  頭上から、冷たい声が降って来る。  横たわる男は、静かに地面を見据えた。  その瞳は憂いもなく、ただ希望に満ち溢れている。  口の端をゆっくりとあげ、男はにやりと笑った。  もうすぐあの女王は倒される。  すべては完璧。  計画通り。  その結末に、僕がいなかったとしても。 「さよなら、僕の――」  頑丈な斧が、音もなく振り下ろされた。
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