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リーリエ・ミドルトンは子爵家の令嬢だった。
長い栗色の髪は巻き毛がかっていて、一部を後ろで編み込み、薄桃のリボンで留めている。残りはそのまま背中に流しているため、彼女が歩くたびにふわふわと揺れた。
理知的な瞳は優しい紫で、薄桃色の服によく合っている。
彼女の母親は、彼女が赤子の頃に病気で亡くなっている。父は一度再婚したものの、二度目の妻と反りが合わず、離婚してしまった。結局彼は、一人目の妻が忘れられなかったのだ。
そんな訳で、リーリエは長いこと、父ダリオとこの屋敷で暮らしていた。
屋敷には数人の召使いがいたが、彼らの主な仕事は料理や掃除だった。
ダリオは子爵家の当主であったが、身の回りのことは自分で行うと決めている。その上、週に一度召使いに休みを与え、その日の料理は自ら作っていた。
彼に倣い、リーリエも同じように過ごしていたが、貴族の間でダリオは変わり者として知られていた。
「ふーむ、これは……」
不意にダリオが声を上げる。後ろから覗き込んでいたリーリエは、ふと彼を見た。
「お父さん?」
「そうか――、クインズベリーに行けば……」
ダリオはぶつぶつと呟いている。
彼はずいぶんと前から、熱心に何かを調査しているのだった。しかしその内容を、リーリエは教えてもらったことがない。
山積みにされた本たちは、どの題名も繋がりに乏しく、調査の内容を想像することは難しい。
「――しかし、直接は危険だな。何か良い手がないか――」
口の中で呟き続ける彼は、完全に思考の世界に入ってしまっている。
リーリエがため息をついて口を開こうとしたとき、彼は不意に振り返った。
「そうだリーリエ、買い物を頼まれてくれないか?」
「買い物?」
「今夜は長丁場になりそうだ。サヴァランのみやげも食べきってしまったしな。角の店のチーズタルトと、あとは何か夜食になるもの。隣の店の――」
「分かった、分かったわ。……まったく、食べるのはいいけど、ちゃんと睡眠もとってちょうだいね」
リーリエは呆れたようにそう言うと、出かける準備をしにかかった。
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