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――――考えすぎね。さっさと買い物をして帰らないと。
リーリエは町の小さな店を回り、ダリオの言っていた物を順に買って行く。
彼は夕食までには帰って来いと言ったものの、すべて買い終えたところで、まだ昼を過ぎたばかりだった。
心配性なんだから、とリーリエは一人ごちる。
――――そういえば、夕食は私の好きな物にするって言ってたわね。
買ったものを抱えながら、そっと家の方を見た。
今日は召使いが休みの日だから、父が自ら作ってくれるのかもしれない。
いや、彼は忙しいのだ。ああは言ったものの、結局こちらが作ることになるのではないか。
それならそれでいいわ、とリーリエは内心で笑った。
簡単な物しか作れないが、あの人のために、頑張ってみてもいいかもしれない。
まだ明るいと言うのに、今から夕食が楽しみになり、リーリエは道草もする気になれず、さっさと家路へ向かった。
道には穏やかな陽射しが降り注いでいる。
*
きい、と屋敷の扉を開く。
両腕に荷物を抱えながら、なんとか中に入ることができた。
「ただいま、帰ったわよ」
言いながら、リーリエは部屋の奥を見る。
しかし、返事はなかった。
書斎にでも行っているのかしら。
そう思いながらも、なんだか胸騒ぎを覚えた。
家の空気がいやに張りつめている。
いつもと同じこの屋敷に、異様な違和感が張り付いているのだ。
リーリエは部屋の端の机に荷物を置くと、わずかに眉をひそめて足を踏み出した。
黙って一歩一歩、部屋の中を進んで行く。
奥へ進めば進むほど、違和感は大きくなり、空気が張りつめていくようだ。
いつも父のいる机。そこには誰もいない。
机の上にはやはり本が散乱していて、幾つかはページが開かれたままだ。
引き出しが開かれたままになっていて、何かを乱暴に取り出したような跡があった。
そこには真っ赤な汚れがついている。
黙ったまま、視線を巡らせる。
そこでリーリエはハッとした。
机の陰から、床に投げ出された誰かの足が見えたのだ。周りには赤い何かがこぼれている。
今まで死角になっていて分からなかったが、息をつめて身を乗り出せば、その姿がはっきりと見えた。
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