第一章 追われる少女とイカれた男

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――――考えすぎね。さっさと買い物をして帰らないと。  リーリエは町の小さな店を回り、ダリオの言っていた物を順に買って行く。  彼は夕食までには帰って来いと言ったものの、すべて買い終えたところで、まだ昼を過ぎたばかりだった。  心配性なんだから、とリーリエは一人ごちる。 ――――そういえば、夕食は私の好きな物にするって言ってたわね。  買ったものを抱えながら、そっと家の方を見た。  今日は召使いが休みの日だから、父が自ら作ってくれるのかもしれない。  いや、彼は忙しいのだ。ああは言ったものの、結局こちらが作ることになるのではないか。  それならそれでいいわ、とリーリエは内心で笑った。  簡単な物しか作れないが、あの人のために、頑張ってみてもいいかもしれない。  まだ明るいと言うのに、今から夕食が楽しみになり、リーリエは道草もする気になれず、さっさと家路へ向かった。  道には穏やかな陽射しが降り注いでいる。 *  きい、と屋敷の扉を開く。  両腕に荷物を抱えながら、なんとか中に入ることができた。 「ただいま、帰ったわよ」  言いながら、リーリエは部屋の奥を見る。  しかし、返事はなかった。  書斎にでも行っているのかしら。  そう思いながらも、なんだか胸騒ぎを覚えた。  家の空気がいやに張りつめている。  いつもと同じこの屋敷に、異様な違和感が張り付いているのだ。  リーリエは部屋の端の机に荷物を置くと、わずかに眉をひそめて足を踏み出した。  黙って一歩一歩、部屋の中を進んで行く。  奥へ進めば進むほど、違和感は大きくなり、空気が張りつめていくようだ。  いつも父のいる机。そこには誰もいない。  机の上にはやはり本が散乱していて、幾つかはページが開かれたままだ。  引き出しが開かれたままになっていて、何かを乱暴に取り出したような跡があった。  そこには真っ赤な汚れがついている。  黙ったまま、視線を巡らせる。  そこでリーリエはハッとした。  机の陰から、床に投げ出された誰かの足が見えたのだ。周りには赤い何かがこぼれている。  今まで死角になっていて分からなかったが、息をつめて身を乗り出せば、その姿がはっきりと見えた。
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