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床には滴るような血だまりができていた。
嘘みたいに大量の血が、男の身体から流れている。
父ダリオは死んでいた。
目を閉じて苦悶そうな表情を浮かべ、もう息もしていなかった。
リーリエは黙ってそれを見た。
嘘みたいに、まるで現実味のない光景。
投げ出された四肢は、もう動かない。
右手は中途半端な形で固まっており、何かを握ろうとしているようだった。
その先に、血の付いた銃が転がっている。
恐らく、引き出しからこの銃を取り出したのだ。
撃とうとしたけれど、間に合わなかったのだ。
リーリエはかがみこみ、父親に手を伸ばした。
もう動かないその頬に、そっと触れた。
「おい、こっちにもいないぞ」
びくり、と肩がはねる。
誰かが家の中にいる。すぐ傍だ。足音が聞こえる。
反射的に銃を拾うと、リーリエは慌てて立ち上がった。
その拍子に、否(いや)が応でも音を立ててしまう。
「聞こえた!」
「どっちだ!?」
リーリエは急いで走り、戸棚の陰に隠れた。
ばくばくと心臓が音を立てる。
床を踏み鳴らし、二人の男が部屋に入ってくる。
今日は召使いの休みの日だ。運良く彼らは巻き込まれずに済んだ。
いや、運が良いなんてはずはない。
父は殺されてしまった。
「近くにいるはずだ」
「探せ。奴は執拗に調べてた。娘も知ってるかもしれねえ」
――――ああ、お父さん。
彼は何かを調べていた。
きっとそれは、知ってはならないことだった。
命を狙われるほど、危険な真実だったのだ。
なぜそんな物を知ろうとしたのか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
生きてここから逃げなければ。
リーリエはぎゅっと拳銃を握りしめる。
自分の手が震えていることに気づいたが、構っていられなかった。
人を殺したことも、ましてや引き金を引いたことも無い。
それでも今、この瞬間。
撃てる覚悟が必要だ。
「――そこか?」
足音が近づいてくる。
「ああ、いたぞ。戸棚の影だ」
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