第一章 追われる少女とイカれた男

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 床には滴るような血だまりができていた。  嘘みたいに大量の血が、男の身体から流れている。  父ダリオは死んでいた。  目を閉じて苦悶そうな表情を浮かべ、もう息もしていなかった。  リーリエは黙ってそれを見た。  嘘みたいに、まるで現実味のない光景。  投げ出された四肢は、もう動かない。  右手は中途半端な形で固まっており、何かを握ろうとしているようだった。  その先に、血の付いた銃が転がっている。  恐らく、引き出しからこの銃を取り出したのだ。  撃とうとしたけれど、間に合わなかったのだ。  リーリエはかがみこみ、父親に手を伸ばした。  もう動かないその頬に、そっと触れた。 「おい、こっちにもいないぞ」  びくり、と肩がはねる。  誰かが家の中にいる。すぐ傍だ。足音が聞こえる。  反射的に銃を拾うと、リーリエは慌てて立ち上がった。  その拍子に、否(いや)が応でも音を立ててしまう。 「聞こえた!」 「どっちだ!?」  リーリエは急いで走り、戸棚の陰に隠れた。  ばくばくと心臓が音を立てる。  床を踏み鳴らし、二人の男が部屋に入ってくる。  今日は召使いの休みの日だ。運良く彼らは巻き込まれずに済んだ。  いや、運が良いなんてはずはない。  父は殺されてしまった。 「近くにいるはずだ」 「探せ。奴は執拗に調べてた。娘も知ってるかもしれねえ」 ――――ああ、お父さん。  彼は何かを調べていた。  きっとそれは、知ってはならないことだった。  命を狙われるほど、危険な真実だったのだ。  なぜそんな物を知ろうとしたのか。  いや、今はそんなことはどうでもいい。  生きてここから逃げなければ。  リーリエはぎゅっと拳銃を握りしめる。  自分の手が震えていることに気づいたが、構っていられなかった。  人を殺したことも、ましてや引き金を引いたことも無い。  それでも今、この瞬間。  撃てる覚悟が必要だ。 「――そこか?」  足音が近づいてくる。 「ああ、いたぞ。戸棚の影だ」
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