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リーリエの呼吸は浅くなる。
それでも足に力を込め、なんとか気丈に立っていた。
「出て来い。父親はもう死んだ。余計なことに首を突っ込むからだ」
答えずに、引き金に震える指を掛けた。
相手がカチャリと、銃を構える音が聞こえる。
「さっさと諦めろ。お前はここで死ぬんだ」
リーリエは足を踏み出した。そのまま振り返り、相手に向かって銃を構えた。
男の目が見開かれる。
「おま――っ」
轟(とどろ)く銃声。
耳の割れるような音を聴きながら、リーリエは再び引き金を引いた。
すぐ傍で何かが弾けた。次々と窓ガラスは割れ、何もかもが壊れていく。
もうどちらの銃声かも分からない。
迷っている暇はない。人を殺すのは怖かった。だから相手の足を狙った。
撃って、撃って――そのまま外へと駆け出した。
「あいつ……っ!!」
後ろで男が崩れ落ちる。
残ったもう一人が、何かを叫びながら追って来る。
リーリエは町の中へと逃げ出した。
ウィスマルクの町は、やはり午後の朗らかな陽気に満ちている。
おかしなほど穏やかで、何もかもがちぐはぐだ。
町の人々がこちらを振り返る。リーリエはその横をひたすら走り抜けた。
誰かに助けを求める余裕なんてなかった。
銃を持った男が、後ろから追いかけて来ているのだ。
助けを求めたところで、相手も巻き込まれて殺されるかもしれない。
もう平和な町はどこにもなかった。
今の世界に、頼れるのは自分しかいない。
なぜか分からないけれど、とにかく生きなければと思った。
噴水の広間を通り過ぎ、家々の合間を縫い、リーリエは路地の壁に身を隠した。
男がばたばたと走って来ては、きょろきょろと辺りを見回すのが見えた。
リーリエは肩で息をしながら、再び拳銃を握りしめたが、彼はまもなく見当違いの方向へ走って行った。
ほっとしてため息をついたが、休んではいられない。
あの男は確実に自分を殺すつもりだ。
この町にいる限り、死ぬのは時間の問題だ。
リーリエは立ち並ぶ家の合間から、向こうに見える大きな駅舎を見上げる。
赤褐色のレンガが敷き詰められた建物は、堂々とそびえていた。
そこには汽車が停まっている。
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