第一章 追われる少女とイカれた男

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 リーリエの呼吸は浅くなる。  それでも足に力を込め、なんとか気丈に立っていた。 「出て来い。父親はもう死んだ。余計なことに首を突っ込むからだ」  答えずに、引き金に震える指を掛けた。  相手がカチャリと、銃を構える音が聞こえる。 「さっさと諦めろ。お前はここで死ぬんだ」  リーリエは足を踏み出した。そのまま振り返り、相手に向かって銃を構えた。  男の目が見開かれる。 「おま――っ」  轟(とどろ)く銃声。  耳の割れるような音を聴きながら、リーリエは再び引き金を引いた。  すぐ傍で何かが弾けた。次々と窓ガラスは割れ、何もかもが壊れていく。  もうどちらの銃声かも分からない。  迷っている暇はない。人を殺すのは怖かった。だから相手の足を狙った。  撃って、撃って――そのまま外へと駆け出した。 「あいつ……っ!!」  後ろで男が崩れ落ちる。  残ったもう一人が、何かを叫びながら追って来る。  リーリエは町の中へと逃げ出した。  ウィスマルクの町は、やはり午後の朗らかな陽気に満ちている。  おかしなほど穏やかで、何もかもがちぐはぐだ。  町の人々がこちらを振り返る。リーリエはその横をひたすら走り抜けた。  誰かに助けを求める余裕なんてなかった。  銃を持った男が、後ろから追いかけて来ているのだ。  助けを求めたところで、相手も巻き込まれて殺されるかもしれない。  もう平和な町はどこにもなかった。  今の世界に、頼れるのは自分しかいない。  なぜか分からないけれど、とにかく生きなければと思った。  噴水の広間を通り過ぎ、家々の合間を縫い、リーリエは路地の壁に身を隠した。  男がばたばたと走って来ては、きょろきょろと辺りを見回すのが見えた。  リーリエは肩で息をしながら、再び拳銃を握りしめたが、彼はまもなく見当違いの方向へ走って行った。  ほっとしてため息をついたが、休んではいられない。  あの男は確実に自分を殺すつもりだ。  この町にいる限り、死ぬのは時間の問題だ。  リーリエは立ち並ぶ家の合間から、向こうに見える大きな駅舎を見上げる。  赤褐色のレンガが敷き詰められた建物は、堂々とそびえていた。  そこには汽車が停まっている。
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