女王様と俺

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 軽やかに流れてきた風が木の葉を優しく騒めかせるポプラの木陰で、残された二人は顔を寄せて煙草の火を分け合う。 「お前もなかなか楽しい所で働いているんだな。一応これで、めでたしめでたしだが、ありゃあ、これからが大変だ。二人は当然、周りもな」  木漏れ日に当たって切れ長の瞳がきら、と瞬いた。 「・・・そう思うか?」  長谷川を見下ろす立石の口元に、ふわりと笑みが昇る。 「ああ。台風の目同士という感じかな。用心しないとあっという間に巻き込まれて、大嵐になりそうな気がする」  長谷川は楽しげに煙草の煙を空に向かって吐き出した。 「どうする?立石。逃げ出すなら、今のうちだぞ」 「・・・お前に比べりゃ、あいつらなんざ、まだまだ微風みたいなもんだよ」  ゆっくりと肩を寄せて囁く。 「…好きだよ」 「知るか、そんなもん」  憎らしい言葉しか紡がない女のつれない唇に、立石は静かに自らの唇を落とした。  ゆっくりと、触れるか触れないかの位置まで唇を寄せると、生はゆるくまつ毛を伏せた。  それを承諾ととり、今度は遠慮なく触れる。  上唇を吸い、下唇を軽く噛み、最後にもう一度優しく触れた。  本当はもっと深く触れたいけれど、離れがたくなるのは目に見えているから我慢する。  そっと離すと生がふっと息をついた。  その吐息の甘さに、つい、口について出てしまった。 「もしも・・・」 「・・・ん?」  肩を抱き寄せたまま、耳にささやく。 「今度からは俺を呼べよ」 「…何…?」 「したくなったら、俺にしとけ」  少し預け気味だった身体が身じろぐ。 「・・・は?」 「だから、舐めたくなったら」 「・・・なんだと?」  柔らかいその体が凍りの柱に変化したのを手のひらで感じ取ったときにはもう遅かった。 「こんの、あほんだら!!お前なんぞ南極大陸にでも行ってしまえ!!」  愛の鉄拳は今回も見事に徹の頬に収まった。
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