私が死んだ理由

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またある時、私は赤い帽子を被って出掛けた。 大きめのまぁるいツバがお気に入り。 「忘れ物ですよ。」 突然、掛かった声にああ、いつかのカエル?って振り向いたら 何もいなかった。 「きっと空耳ね。」 そう思うことにして歩き始めたら足元の何かに気付いた。 それはーーー 「忘れてますよ?」 蟻が列を成して歩いていた。 先頭を歩く蟻を踏まないよう踏み出しかけていた足をそっと元の位置に戻してから返事をした。 「忘れ物?一体、何を?」 「お散歩ですか?」 私の質問にはスルーなのね。 「ええ、ちょっと天気も良いことだし散歩でもしようかと…」 行くあてなんてない。 もう、どこにも。 ただ、一人家にいたら例えようのない気持ちに押し潰されそうな気がして。 なんて事、蟻に話しても仕方ないけどね。 そんな私に蟻は言った。 「ああ、そうでしたか。間に合って良かったです。あなた、夕日を忘れてますよ。」 「夕日を?」 「ええ、そうです。」 蟻は続けた。 「さぁ、その赤い帽子を投げてください。空に向けて。難しい事ではありませんよ。ほらっ、こうやって。」 蟻は持っていた角砂糖の欠片を放り投げた。 途端にリーダー蟻に注意されてたけれど。 「分かったわ。」 ーーーまぁるい大きなツバがお気に入りなんだけどな。 思い切り赤い帽子を空に向けて投げた。 空はあっという間に夕焼け空となった。 綺麗な綺麗な赤い空。 まぁるいツバの様な夕日が私の心に忘れかけていた情熱とじわりと私の足元に広がる鮮やかな赤を思い出させる。 「私…」 何かを言いかけたけれど言葉は続かなかった。 道のずっと先に蟻の列を見つけた。
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