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今夜はどこにもいかない。
墨色の夜は私の心も暗く塗りつぶす。
「忘れ物だよ。」
またか。
カエルも蟻ももう寝る時間でしょ?
「結構です。今夜は疲れているの。忘れたままにして。」
そう、なにもかも。
墨色の夜空を見上げても潔いくらい何もなかった。
進むべき道を優しく照らしてくれる月も、迷った時にこっちだよって導いてくれる星も。
何もなかった。
なのにーーー
「忘れ物だよ。」
「だから、カエルだか蟻だかしらないけど結構ですってば。」
縁側から降り立ち腰に手を当て縁の下を睨みつけると
「違う。そこじゃない。」
どうやら見当違いの方から声がする。
ゆっくり縁の下より視線を上げてみればーーー
ーーーもう人の存在すらも分からなくなってしまったのか…
少し長めの前髪を掻き上げながら独り言のようにその人が呟いた。
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