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高校で決められている部活動の時間は基本的に午後六時までだったが、運動部などは片付けや着替えなどで七時近くなることが多い。菫は着替えないし、楽器をしまうのにもそんなにかからないので、いつも六時半には全て終わり、昇降口の前で三十分ほど貴士を待っていた。
貴士は話があまり得意ではないのを菫は知っているので、高校を出て川沿いの土手を歩き、橋の前で別れるまでのほんの二十分間、主にしゃべっているのは菫だった。
「すごいね! 私、流れ星初めて見た! 神武くんは?」
「俺も……初めてだと思う」
「願い事した?」
「うん」
貴士の「うん」と言いながら同時にうなづくところが菫は好きだった。
席は隣同士だが、他のカップルと違い、ベタベタしていないし、昼休みもお互い友達と食べているので、もしかしたら傍から見たら付き合っているとは思われていないかもしれない。
いや、貴士自身もそう思ってないかもしれない。菫は不安な気持ちを否定できなかった。
はっきり「好きです」と言わなきゃいけない気がする。でもなかなか言えなかった。
今が、そのチャンスのような気がした。
少し先を歩く貴士の左手は菫の右手を握ったままだ。
さっきは流れ星を見せようと引っぱったのかもしれないが、まだ離さない。お互い緊張しているのか手のひらが湿ってきた。
「……神武くん、わ、私のこと好き?」
後姿しか見えないので言いやすかった。自分でもズルい聞き方しているなと菫は思った。
「うん」
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